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醸造家に質問!ワインを楽しむAtoZ

フランス・ロワール地方で無農薬ワインを手がける日本人醸造家の新井順子さん。現地でも高い評価を受ける新井さんに、ワインにまつわる素朴な疑問をインタビュー。テロワールのこと、ビオディナミのことをはじめ、ワインをたのしむヒントをたっぷり伺いました。
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まず「テロワール」とは、どのようなものですか。
- 新井
一般的には、土地や気候条件を指す言葉です。でも、そこに加わる“人の手”も含めたものを、私は本当のテロワールだと考えます。
というのも、土おこしや剪定(せんてい)などの畑仕事を同じ土地で行ったとしても、前の土地の持ち主と私ではやり方が違うはず。そうすれば自然と、土地の個性やできるワインも変わるでしょう。
実際、隣同士の区画から生まれたワインでも、わずかな気候の違いや世話をする人によって、味わいは異なるんですよ。気候風土はもちろん、つくり手の個性を一本のワインから感じる。それこそがテロワールの醍醐味です。

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では「ビオディナミ」とは何ですか。
- 新井
無農薬農法をベースに、天体の力を利用した農法です。自然のサイクルに合わせてブドウを育てることで、ブドウの樹が本来もつ自然治癒能力を高めます。
中でも「ビオディナミ」に大切なのは、月の満ち欠け。月は地球の周りを回りながら、地球と大きな力で引き合います。そんなパワーを、ワインづくりに生かさない手はありません。私自身も月のサイクルに合わせ、畑仕事を行います。たとえば、エネルギーが最高潮を迎える夏至までに樹の剪定を終える、といったように。そんなビオワインは飲みごろも、月の運行と関係しています。殻が落ち着く新月の、晴れた日がベストです。

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新井さんがワインづくりに、フランス・ロワール地方を選んだわけは?
- 新井
2001年に、3代続く無農薬の畑を手に入れるチャンスが巡ってきて、急遽ロワールでワインをつくることになりました。実際、こういった完全無農薬の畑は貴重です。ビオワインが好きで、自分でもビオディナミを実践したいと思っていた私は即決しました。
さらに、ここトゥーレーヌ地区は、雨が少なく年間の寒暖差があり、気候の面でも上々です。それになんといっても、ロワールは品種の規制がゆるやかで、白、赤、ロゼ、スパークリングと多彩なワインを産するエリア。遅めの醸造家デビューだった私も、この地だからこそ幅広い経験が積めています。そんな懐の深さもロワールの面白さです。

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ワインの、おすすめのたのしみ方を教えてください。
- 新井
ワインは、気軽に大人数で楽しく飲むのがロワール流です。とくに私が大好きなのは、収穫前のピクニック。収穫期に入ると寝るヒマもありませんから、その直前に、地元のみんなでワインと食べ物を持ち寄り、一日中食べっぱなし、飲みっぱなしで過ごすのです。
そんなパーティに欠かせないのが、シェーブルチーズ(山羊のチーズ)。こっちでは、鮮度が高くて本当においしいんですよ。ロワールの白ワインとも相性抜群。
日本でワインを楽しむのなら、ダシを使った和食とのマリアージュもおすすめです。中でも、ロワールの白がもつデリケートな味わいは、和食材や出汁の旨みを上手に引き出してくれます。

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ワインをよりおいしく飲むコツを伝授してください。
- 新井
まずは、よいグラスを用意しましょう。ボウル部分が大きく、香りの立つものがいいですね。なぜなら、ワインにとって香りは命。一説によれば、ワインの楽しみは香りが7割。となればやはり、味を決定する道具はそれなりのものを選んでほしいのです。
私のワイナリーでも、農機こそ年代モノですが、コルクや樽など品質に影響するものにはこだわっています。そして、飲むときの温度はセオリーに左右されず、自分の感覚を大切にしてみてください。私は、ベストと思うところから-1°Cで抜栓します。まずは、低めの温度からスタートして、温度と味の変化をたのしんでみるのもいいですよ。


新井 順子 JUNKO ARAI
ワイン醸造農家・ワイン輸入商・ワインコンサルタント。ボルドーにて醸造学を学び、帰国後はフランス料理店を経営。2002年、ロワールのトゥーレーヌにワイン蔵「ドメーヌ・デ・ボワ・ルカ」を構え、当主となる。2003年、ワイン輸入会社「コスモジュン」を設立。2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに、日本酒づくりにも取り組むように。