PEOPLE想いをつなげる
私の「おいしい」 -IBIZA SMOKE RESTAURANT 尾花 光シェフ

私たちは、日々食べます。それは、体や思考を動かすエネルギーとしてだけでなく、季節の恵みを「おいしい」と感じること、そしてときに誰かと分かち合うことで、心の栄養にもなっているはず。
そこで「おいしい」ってなんだろう、という小さな好奇心を「食するよろこび」に携わる方々に聞いてみることにしました。
今回、お話を伺うのは、福岡・浮羽「イビサスモークレストラン」オーナーシェフの尾花 光シェフです。
INTERVIEW
旅する中で料理を学んだ
- ー
尾花シェフは「イビサスモークレストラン」の2代目として、
高校卒業後、お父さまからお店を継がれました。
そもそもスペイン料理の勉強をされていたのでしょうか。- 尾花
物心ついた頃から、料理はつくっていました。
ただ、お客さまに出す料理となると、
何が正解か分からず、
それがコンプレックスでもありました。以前から旅が好きだったので、
店を営む傍ら
画家でもあった父の友人もいるスペインなどを巡り、
少しずつ、様々な味を学んでいったんです。
そして、どういう料理をしたいのかを探っていきました。この旅の中で、今も僕のベースになっている
トラディショナルなスペイン料理の魅力を教えてくれたのが、
フォルメンテーラ島で出会った料理人のトニーです。
彼は、クルーザーでしか行けないような場所で
レストランを営んでいるのですが、
地元の食材で郷土料理をつくります。
そこで食べたうつぼのパエリアが、
ダイナミックで、シンプルで、
とてもおいしくて、格好よかったんですよね。- ー
うつぼですか。
- 尾花
はい。
うつぼでも肉でも、その土地のものでつくる。
それは、郷土を愛しているからこそできる
「おいしい」料理なのだと、
本質みたいなものに気づくきっかけを与えてくれました。- ー
郷土を愛するというのは、
知っているということでしょうか。- 尾花
そうですね。
僕が旅する中で料理を学ぶとき、
そもそも何者かを理解するところから始まるんです。
スペイン料理とは何だ?
パエリアとは何だ?
とくに、お客さまに出す料理は、
トラディショナルを知っていること。
そして、文化や伝統を理解していることも大事だと思うので。
バレンシアを旅したときは、
パエリアを徹底的に理解する旅でした。
その中で出会ったうつぼのパエリアは、
料理本来の姿を、僕に教えてくれたように思います。

買い出しから味付け、火加減まで、きちっと料理する
- ー
尾花シェフが料理をするうえで
大切にしていることは何ですか?- 尾花
僕は、全ての農家さんをリスペクトしているのですが、
使うのは地元の旬の食材です。
だいたい、その日の朝に
地元の道の駅へ仕入れに行って、調理します。
たくさん使うようなものは、
仲のいい農家さんにつくっていただく。そうした素材の持ち味を大切に、
「あれ? 何でこんなにおいしいの?」
と思ってもらえるように、きちっと料理します。
たとえばじゃがいもなら、
皮をむいて、最初に塩をふるのか、ふらないのか。
こしょうをかけるのか、かけないのか。
どれぐらい加熱するのか。
加熱は、炒めるのか、煮込むのか。
ほんの小さなところまで、いろいろ考えます。
考えるけれど、味付けはシンプルに。
火加減まで含め、料理をつくっていく。

現地で出会ったつくり手たち。
- ー
シンプルだからこそ、繊細といいますか、
ダイナミックに見えても
細かなこだわりと共に料理されているような印象があります。
- 尾花
そうかもしれません。
- ー
では「おいしい」と一口に言っても様々ですが、
尾花シェフの考える「おいしい」とは?- 尾花
土地を愛して、
土地の食材をわかってつくることでしょうか。
これも、スペインで出会った
大切な人から教えてもらいました。- ー
だから、理解するところから始まるんですね。
- 尾花
そうなんです。
理解は愛することだとも思うので。

料理を食べて、自然と向き合う
- ー
では、最後に
お客さまへ「おいしい」を通じて
伝えたいことを聞かせてください。- 尾花
料理は、野菜や肉など、自然の恵みを扱います。
だから「食べる」って、
僕は、自然と関わることだと思うんです。
「イビサスモークレストラン」は
山々と隣り合わせの環境なのですが、
お客さまには自然を感じながら食べていただきたいと思っています。
目の前にある僕らの料理は、
自然を感じてもらうための調味料のひとつみたいなもの。
お客さまからの「おいしかった」はもちろんうれしいですが、
「自然の中で気持ちよかった」という言葉が聞ければ、
もうそれは最高なんですよね。

尾花 光|HIKARU OBANA
食材の宝庫である地元の食材を中心に、自然のものだけで製造する自家製サラミやハムも提供するレストラン「イビサスモークレストラン」の2代目。父からの教えと伝統的なスペイン料理・文化を学んだ尾花シェフは、自然を感じながら素材を生かしたスペイン料理を追求している。著書に『わが家の本格スペイン料理』(誠文堂新光社)。
イビザスモークレストラン|IBIZA SMOKE RESTAURANT http://ibizasmokerestaurant.com/