PEOPLE想いをつなげる
野菜料理にスパイスを一振り

南青山のグリルレストラン『The Burn(ザ・バーン)』で腕をふるう米澤文雄シェフは、N.Y.での修行時代に“全て植物由来の食生活”であるPLANT-BASED(プラントベース)と出会いました。以来、様々なお客さまによろこんでいただきたいと、自身のお店では肉や魚などを使ったメニューに加え、プラントベースのお料理も提供。垣根なく、誰もがたのしめると評判です。
そんな米澤シェフの料理で欠かせないのが、スパイスです。その魅力に気がついたのは、N.Y.の『Jean-Georges(ジャン・ジョルジュ)』時代。師匠であるジョルジュ氏がスパイスを頻繁に使っていたこともあり、仕事を通して香りにとり憑かれていったといいます。
ここからは、国内外のレストランで経験を積んだ米澤シェフの考える、スパイスの魅力。そして、プラントベースの食生活がより充実する、スパイスの取り入れ方について伺います。
INTERVIEW
香りまで含めて「おいしい」
レストランやレシピ開発など、仕事で料理をするときも、ご家族や友人に腕をふるうときも。米澤シェフは、香りまで考えて料理をするそうです。
「視覚と嗅覚、この2つへ訴えかけることが、おいしい料理には欠かせません。とりわけ香りは、味の期待を高める一番大きな要素だと思います。もちろん、視覚で『(見た目から)おいしそう!』と感じることも大切ですが、香りは体の中に入ってくるでしょう。お腹の底から『食べたい!』と食欲を動かす大きな力があるはず」

だからこそ、スパイスが料理で担う力は大きいと、米澤シェフ。料理をする傍らには必ずスパイスがあり、あって当たり前の存在。もし、スパイスなしで料理をしてと言われたら、少し困ってしまうかもと笑います。
「僕は、スパイスを使うとき、相性や組み合わせから香りを加えたり抜いたりします。抜くというのは、たとえば肉や魚のくさみ消し。コショウやニンニク、生姜などのスパイスで、必要のない香りを抜きつつ、おいしさを加わえるイメージです」
先人のレシピをまず知る
しかし、相性とひと口に言っても、スパイス初心者は何が正解なのかわからない、というのも正直なところ。米澤シェフは、古くから世界中で培われてきた“先人が見つけたおいしい組み合わせ”を知ることから始めたといいます。
「セオリーは、知っておくとアレンジがしやすいです。たとえば、スパイス料理の代表であるカレー。インドカレーなら、乾燥させたドライスパイスの、クミンやカルダモンなど。タイカレーの場合は、生のニンニクやパクチーなど、フレッシュスパイスを使います。こうした基本を紹介している本などを教科書に、まずは基本に忠実につくってみましょう。つくると食べるを繰り返すうち、きっと好きな香りと味の組み合わせが見つかるはずです」

また、スパイスの“味”も、上手に活用すると、さらに料理がおいしくなるそうです。
「苦みや辛みのほかに、スターアニスやクミン、シナモンなど、甘みのあるスパイスもあります。味は、香りと同じく食欲をそそりますし、スパイスの味は独特で、アクセントのようにも使えますよ。また、甘みといってもお砂糖とは違って、口の中に漂うというか。スパイスならではの感じ方があり、味わいに広がりが出るんです」
プラントベースとスパイス
米澤シェフは、その著書で、全て植物由来の料理をつくるときのポイントを紹介しています。
1.焦がす
2.乾燥させる
3.酸味を使う
4.油分を補う
5.ハーブ、スパイスを使う
6.味や食感が特徴的なアイテムを使う
これらは、料理に広がりを持たせるという意味で、大切になってくるそうです。
「あえて焦がして味わいや食感にアクセントを加えたり、食材を干すことで旨味を凝縮したり。中にはひと手間かかる方法もありますが、奥深さが出るので、プラントベースの料理には欠かせません。というのも、やはりどうしても、動物性の食材ならではの味のボリューム感は、植物性の食材のみだと難しい。ですから、こうした工夫で食材においしさを肉付けしていきます」

「スパイスの場合は、一振りから広がりを持たせられるので、気軽ですよね。組み合わせも、一度セオリーさえ掴めば無限大と言っても過言ではありません。プラントベースの食生活で、ちょっと満足感が欲しい時や、さらなる広がりを出したい時に、スパイスは積極的に使っていただきたいです」
HOW TO ENJOY?
便利なスパイスと活用方法
日頃、米澤シェフが愛用しているスパイスと、その活用方法を教えていただきました。プラントベースの料理にもおすすめです。
クミン
独特な強い芳香と、ほろ苦さや辛みをもつスパイスです。インド、メキシコ、東南アジア、アフリカなどのエスニック料理に必須。
「僕は、料理を差別化したい時に活用しています。パッとかけるだけで、カレーでおなじみの独特の香りが加わりますよ。衣に混ぜて揚げたり、炒めものに加えたり。中でもニンジンとの相性は抜群で、生でもローストしたものでも、どちらもおいしいのでかけてみてください。クミンの奥深さがニンジンの旨味をさらに引き出してくれます」
カルダモン
清涼感のある香りで、ピリッとした辛みとほろ苦さがあります。カレーやひき肉料理、また甘いものに加えても。
「なんとも言えない魅惑的な香り。一振りで違う世界へ誘ってくれる強さがあります。僕は、カリフラワーのステーキに一振りしたり、フルーツとも相性がよいので、フルーツを使ったデザートやサラダに振りかけることもあります。あとは、チャイに少し入れてもおいしい。選べるなら、ホールのほうが香りがよくおすすめです」
プラントベースの料理に取り入れるコツ
自宅でプラントベースの料理をたのしむ場合、どのようにスパイスを取り入れるとよいでしょうか。動物性タンパク質を食べる方にも参考になる方法です。
パウダータイプを仕上げに一振り
「スパイス初心者なら、パウダーにしたスパイスを料理の上からかける。これが一番簡単で、風味がグッと変わり、味わいに奥行きが出せます。ただ、香りは時間とともに飛ぶので、できればホールを自分の指などですりつぶしてかけるのがおすすめ」
ミックススパイスを活用する
「スパイスは、好みのミックスを見つけるのがいちばんのたのしみとも言えます。たとえばインドなどで使われる『ガラムマサラ』は、家庭によって味わいが違います。日本なら、味噌汁の味噌の調合に近い感覚でしょうか。自分好みのミックススパイスをつくれるようになると、同じメニューでも味わいが広がります。
自分でミックスするのは難しいなら、便利でおいしいミックススパイスに頼るのも手。お気に入りのミックススパイスと出会えたら、これもつくってみよう、あれにかけてみようと、食べることがますますたのしくなると思います」
食感と酸味を味方につける
「プラントベースのレシピを考える時、主役となる食材が活きることや旬をたのしむことは大前提。食べ進めるうえでのインパクトや口で感じるリズム感、そして満足感も大切にしています。ザクッとか、酸っぱい! とか、辛い! とか。
そこで活躍するのがスパイスです。ホールタイプのスパイスや、ナッツ類やゴマなども加えたミックススパイスなど、食感もたのしいスパイスは、短調になりがちな野菜主役の料理にほどよいアクセントを加えてくれます。同じく、酸味のあるスパイスやミックススパイスも、味にパンチを与えられるので、よく使います」
米澤シェフのおすすめ

ザータル
ザクザクとした食感のあるミックススパイスで、イスラエルを旅した際に出会いました。現地では、何にでもザータル。ピタパンにオリーブオイルを塗り、ザータルをかけて朝食に。あとは、チーズにのせたり、サラダに加えたり。中でもピタパンにかけた朝食は、パリでいうクロワッサンのような感じです。

スマック
まるで日本の紫蘇ふりかけのような風味の、酸っぱいミックススパイスです。そのままソーダに加えたり、サラダに振りかけたり、ドレッシングにビネガー代わりに混ぜたり。酸味でアクセントを加えることの多いプラントベースの料理で、活躍するミックススパイスの一つです。

米澤文雄|FUMIO YONEZAWA
恵比寿のイタリアンで修行後、22歳で渡米。N.Y.の三ツ星レストラン『Jean-Georges』で日本人初のスーシェフを務め、多様な食生活の人々をもてなす。2018 年秋、東京・南青山にグリルレストラン『The Burn』をオープン。著書に『ヴィーガン・レシピ』(柴田書店)もあり、野菜をおいしく食べる工夫に精通する。
ザ・バーン|THE BURN
http://salt-group.jp/shop/theburn/